がん知識の森
がんと診断されたとき
がんと診断された時は、ショックで医師からの説明など頭に入っていきません。国民の2人に1人が、がんになると言われていても”がん=死”というイメージは強いです。初期であれ、転移をしているものであれ変わらないと考えます。
初期で治療できたとしても再発するかもしれないという見えない恐怖と闘っていると患者さんから聞いたことがあります。
家族・友人も動揺します。1日でも早く治療をしたほうが良いのではないか?
治療費はどれくらいかかるのか?
治る治療をするためにはどうしたらよいのか?
これまでの食事などに問題があったのではないのだろうか?
様々な後悔と不安が襲ってきます。
がんと診断された時の注意点と私が患者さんに言っていることを掲載します。
やるべきこと
①再度、時間をおいて説明を求める。
午前中に説明を受けたのであれば、夕方など主治医の都合が良い時間や翌日にも再度説明をしてもらうようにお願いする。
告知後の説明は全然記憶に残らないと思ってください。それが通常だと思っています。外来患者数が多く、5分間診療と言われている日本だと尚更むずかしいと思います。
②がんの状態が手術などで取り切れるものなのか、それとも取り切れないものなのかを確認する。
根治的な治療を行えるのか、そうでないのかで心持ちが大きく変わってきます。
③現在の主治医と気が合いそうかを見極める。なかなか難しいが、がん治療をするのは目の前の主治医です。どんな有名な病院に行ったとしても、そこにいるのは後期研修医・大学病院などからの派遣医師のことがあります。主治医になる医師とのフィーリングが大事です。
セカンドオピニオンを考えるポイント!
ここで主治医が迷ったそぶりを見せる場合には他の施設の意見を聞いてみることが大事
(難しいのは大学派閥があること。広島県内だと広島大学と岡山大学の関連病院がほとんどです。そこには医師の関係があるため、私は広島大学関連病院からセカンドオピニオンを受ける場合には岡山大学関連病院でのセカンドオピニオンを推奨しています。)
希少がん(特に肉腫)に関しては施設の経験値がものを言います。実際に、最初の施設では手術はできないと言われた症例で肉腫を多数扱っているセンター病院にセカンドオピニオンを推奨して手術できた症例もあります。
逆に、大腸癌・乳癌などの患者数が多いがん種に関しては、日本のどこでも受けれる治療はほぼ一緒です。セカンドオピニオンで最初の病院と治療方針が一緒であれば治療を早めに導入できる病院で治療を開始するのを推奨します。
やってはいけないこと
①安易にネットで検索しない。
ネットに出てくる情報は玉石混合です。国立がん研究センターが発信しているような正しい情報もあれば、がんの予後は●か月、、、 がん患者のブロブ、怪しい高額治療まで様々です。冷静さを欠いた状態で検索していると正しい情報、進むべき方向を間違えてしまうことがあります。ネットで検索する前に”病院”の主治医やがん治療に詳しい”かかりつけ医”に相談しましょう。
②がん”治療”クリニックには行かない。クリニックで抗がん剤治療、放射線治療を自費で行っているところには絶対に行ってはいけません。私も診療所の経営をしていますが、がん治療だけで利益を上げるのはクリニックでは非常に難しいです(とれる加算がほとんどないから)。ということは自費や他の収入源がある場合が多く、それはかなり怪しいと考えられます。それに、がん治療には副作用があります。入院できる病院と連携をとれるところでないと治療は難しいです。ほとんどのインチキクリニックはホームページに連携病院で大学病院などを列挙していますが嘘のことが多く、まともな診療所は連携病院をわざわざ記載しません。
③セカンドオピニオンに時間をかけない。がん治療は種類によっては時間が致命傷になります。セカンドオピニオンの予約が1か月後、2か月後となる場合もありますが、そんな時間をかけるのは無駄足になることがあります。
ぱっと思いついたことを記載しました。これは、アップデートしてより良いものにしていこうと思います。何か気になることなどがあれば、問い合わせフォームからご連絡ください。一緒に考えます。
子宮頸がん新薬
またまた、子宮頸がんに関しての新薬の情報がNEJMに掲載されていました。

CemiplimabというのはPD-L1抗体のようです。
キイトルーダがもうすぐ日本でも承認されそうという噂は聞いていますが、2つめの免疫チェックポイント阻害薬となりそうです。
子宮頸がんはプラチナ製剤+パクリタキセルで病状進行してしまうと、それ以外の治療がなかなかありません。
今回は1次治療終了後にCemiplimabを投与されての成績が掲載されています。

これが生存率のグラフになっています。黄色い線がCemiplimabの使用群です。これまでの抗がん剤治療と比較して上に来ている=長生きできている人が多いということです。頸がんには扁平上皮癌と腺癌がありますが、どちらのタイプでも同様に良好な成績が得られています。

PD-L1抗体薬なので、PD-L1が多い腫瘍のほうが良く効くことが想定されるのですが、1%以上発現していると良く効いていますが、残念ながら<1%だとこれまでの抗がん剤治療と同様の効果にとどまっております。
PD-L1>1%の症例で承認されるようになるのでしょうか?一日でも早く、選択肢が増える治療が患者さんに届くことが望ましいです。
2022.02.13 | がん治療Q&A
詐欺医療やトンデモ医療
Twitterを始めていろんな情報が見れるようになって勉強になっています。
エビデンスがない治療をしているクリニックはトンデモない、詐欺だ!と言って啓発している投稿もよく見かけます。私自身もそう思います。
とある医師が、患者さんがインチキクリニックに行こうとしたらどうしますか?とアンケートを取っていました。とても140字では投稿できないので、こちらに書かせてもらいます。
①まず、最善と考えてしてきた抗がん剤治療などが本当に「患者さんにとって」最善だったのかを考えなおします。これまでも、そういったクリニックに流れていく患者さんを診てきていますが、私を含めて主治医との関係性がこじれていることがあります。
まずは「患者さんは納得して一緒に治療をしてくれていたのか?どこかの説明などでエビデンスやガイドラインを盾にして頭ごなしになっていなかったか?」と自問自答します。
教科書的な「患者さんになぜそう思ったのかを聞く。」はその次だと思います。
②患者さんにとっては、がん治療=抗がん剤や小さくするための治療であって、がん治療に緩和ケアが含まれるという意識は医療者と非医療者での隔たりがまだまだ大きいです。自費診療のクリニックで治療を受けたいと言ってくれた患者さんには私の考えを話しますが、それでもというのであれば、止めることはしません。何か私が協力できることがあればしますし、もしどこか別の医療機関にかかることが希望であれば、、、と言って、対応してくれそうな医療機関を紹介してそこの先生と連絡を取り合ってみます。
自費診療のエビデンスがなく高額なところに行って、患者さん・家族が満足するのであればそれも一つの答えと思います。搾取している側のクリニックは許せませんが。
エビデンスがない中で闘病して、治療が生きる目標になっている患者さんもいることを私たちが受け入れないといけない時もあると考えています。
2022.02.13 | がん治療Q&A
子宮体癌の新治療
2021年12月24日に子宮体癌に対してキートルーダとレンビマ併用療法が二次治療として承認されました。
子宮体癌はカルボプラチン+パクリタキセル(TC療法)、ドキソルビシン+シスプラチン(AP)療法で初期治療が行われます。
今後はカルボプラチンやシスプラチンを使用後に進行してしまった症例に対するキートルーダ+レンビマが使えるようになりました。
NEJMに承認にいたった試験が掲載されていたので見ていきます。
子宮体癌の827例を対象として1:1の割付試験になっております。
キイトルーダ+レンビマ群 vs 従来の治療群
免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待されるdMMRの患者さんは130人おりますがこれも1:1で割付されています。

pMMR(ミスマッチ修復欠損のない)でも青い線がキイトルーダ+レンビマのように従来の治療よりも良い成績が出ています。

全体でも同様にキイトルーダ+レンビマが勝っています。10%くらいの症例では長期にわたって再発を認めていません。(免疫チェックポイント阻害薬使用時のLong tailと思われます)

生存率もこのようにキイトルーダ+レンビマが効いています。
非常に効果が高い治療であることが分かる一方で副作用も気になります。私も以前に違う癌種の患者さんに臨床試験でキイトルーダ+レンビマを使用したことがありますが、副作用が大変で患者さんも私たちもマネージメントに苦慮した記憶があります。

高血圧、甲状腺機能低下症が50%以上で見られています。Grade3以上の副作用も従来治療よりも16%ほど多く出ています。既存治療では多い、白血球減少症が少ない代わりにその他の副作用が出ます。特にレンビマは倦怠感なども強く出るため投与量などの検討が必要な薬剤です。
広島県だと婦人科で治療されることが多いと思いますが、内科医との密な連携が必要な治療になっていきます。
最近は婦人科癌の新規治療の承認がいくつかあり嬉しいことです。4月からはHPVワクチンも公費で承認されて、キャッチアップも広がります。1人でも多くの患者さんが良い治療を受けられるように、また防げるようになってきています。当院ではがん治療はできませんが、副作用サポートやフォローアップ、HPVワクチン接種はできますのでご相談ください。
2022.02.07 | がん治療Q&A
日本のがん治療に足りないもの
11月3日のLancet Oncologyに高齢がん患者さんの治療に関して興味深い論文を見つけました。今回は長くなりますが、読んでいただけると幸いです。

70歳以上のがん患者さんを治療するときには、高齢者機能評価のサマリーを提供してもらうことにより抗がん剤の毒性が減り、患者の自己意思決定能力も上昇し、転倒も減らしたという内容でした。
日本では、患者さんも「困った時には主治医に相談したい!」と思っている方が多いと思います。これまでかかりつけ医だった診療所などの先生も、がんの副作用は主治医に聞いてください(あなたも主治医なんですけど!)となるケースが多いです。しかしながら、総合病院の先生の外来日は決まっており、電話でもなかなか相談できない、来週の外来日の予約とっておきますね。と言われてそれまで耐える、耐えられなかったら救急車を呼んでしまう。。。こんなことが起きているのが現実です。
この論文内で知ったのですが、アメリカにはCommunity Oncology Practiceという言葉があるようです。地域にいる腫瘍医や看護師のことを指し、治療もすれば、時には他の病院で治療をしている患者のフォローアップなども行い、プライマリケア医としての役割も果たすとあります。
日本では臓器別のがん治療が発達しているため、かかりつけになれるがん治療医は稀です。がん治療は大きな総合病院でやるべきという考えが、医師・患者双方にあります。私が広めていきたい地域の総合腫瘍医はがん治療、副作用マネージメントを総合病院の医師と連携してもできるし、自分でも実施できる、そしてフォローアップ、緩和ケアまでとがん患者の一生、Cance Journeyに寄り添える総合診療医の育成です。日本のプライマリケア医、診療所の医師は予防、緩和ケアには強いけど治療中のフォローに関して体系的に学ぶプログラムがありません。 高血圧、糖尿病と同じ慢性疾患で誰しもが罹患する可能性がある疾患なのに、診断・治療・緩和が分断されすぎているために、主治医から抗がん剤治療はこれ以上ないと言われたときに見捨てられた感が強くなると考えています。がん治療中にももっと関わってくれるプライマリケア医を育てて、全国に増やさないといけません!
この論文なのですが、特に何をしていたかというと、
①IADLを評価 手段的日常生活動作:電話や買い物、洗濯などの評価
②Short Physical Performance Batteryの評価:バランスや歩行の評価
③Geriatric Depression Scaleの評価:うつ状態や精神状態の安定性を評価
④治療中の注意事項
上記をCommunity Oncologistに渡していたようです。そんなに難しいことではなく、医師でなくても評価はできるものです。



この論文の結論としては高齢者のがん治療をするときには評価シートを用いることを標準治療に組み込むべきだとなっています。
日本の現状では、総合病院の臓器別がん治療医がここまでフォローするのは無理です。忙しい外来・病棟・書類仕事の中でそこまでするのは難しく、これを行えるのは診療所やクリニックのかかりつけ医だと考えます。開業医が暇と言っているわけではなく、患者さんと対等に話ができ、どのような地域で生活していて、誰と一緒に暮らしていて、何が趣味なのかなど患者背景を知っておくことでこの評価シートが最大限生かされると考えられます。
そして、患者さんの思いや副作用、抗がん剤治療の提案などをがん治療医に提案して一緒に治療をしていく。こういった体制が取れるようになると高齢化社会を迎えた日本のがん治療がより良い方向に行くのではないかと思います。治療ができないと言われてどこに行ったらいいか分からない、、、などといったがん難民を減らす一助にもなると考えています。
まとまりのない文章になってしまいましたが、日本のがん治療に欠けている物をこの論文から考えることができたので掲載させてもらいました。
2021.12.16 | がん治療Q&A