がん知識の森
子宮頸がんとHPVワクチン
子宮頸がんの原因の1つにヒトパピローマウイルス(HPV)が関わっていることは広く知られています。ウイルスなので感染を防ぐ、ワクチンが開発されています。日本では2価と4価の2種類のワクチンがあります。2価はHPV16型・18型、4価は6型・11型・16型・18型による感染を防ぐ抗体を作ります。
接種対象
接種対象は小学校6年生から高校1年生の女子となっています。
2価:中学1年生の間に、1か月の間隔をおいて2回接種したあとに、1回目の接種から6か月の間をおいて3回目の接種をする。
4価:中学1年生の間に、2ヶ月の間隔をおいて2回接種したあとに、1回目の接種から6か月の間をおいて3回目の接種をする。
子宮頸がんワクチンの効果
HPVワクチンを打つことで子宮頸がんは90%以上予防できるというデータがあります。先日、スコットランドからもワクチンを打った世代と、打っていない世代を比較すると89%も発症率が減ったというデータがでました( BMJ 2019; 365 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.l1161 (Published 03 April 2019) )。
WHOからの資料です。上図のようにワクチンと検診を組み合わせることで子宮頸がんをほぼ失くすことができます。
副作用が全くないわけではありません。発熱や頭痛、吐き気を打った後に生じることはありますが稀です。それに子宮頸がんを防ぐことができるベネフィットが大きいので世界中で接種が推奨されています。
日本では子宮頸がんワクチンとも呼ばれていますが、HPVは男性も感染します。そのため、アメリカやオーストラリアなどでは男性にもHPVワクチンは打っています。
子宮頸がんにかからないようにHPVワクチン接種を受けましょう。瀬尾医院でもHPVワクチン接種可能です。お問い合わせください。
2020.04.30 | がん治療Q&A
抗がん剤中の食事
「食事はいつも通りでいいですか?」
抗がん剤を受けている方、抗がん剤を受けている家族がいる方から良く受ける質問の1つです。
主治医やインターネットから
「抗がん剤治療中は感染症にかかりやすいから、野菜は火を通して、お寿司は避けてください。」と言われて食事が味気ないものになっていませんか?
私は、 「好きなものを食べて、少しずつでも必ず口にするようにしてください。」 と伝えています。
実は、昔から生はダメと言われていますが、しっかりとしたデータはありません。1900年代と現代では食品の物流方法や管理方法が大きく変わっています。 実際に私の患者さんは抗がん剤治療中でもサラダやお寿司を食べていますが、問題になったことはありません。食事は抗がん剤治療中で多くのことを制限されている患者さんにとっては重要ですよね。
少し古い文献ですが、2011年に ”The Benefit of the Neutropenic Diet : Factor or Fiction? (免疫が低下しているときのご飯 : 事実なのかフィクションなのか?)” から引用してみます。
抗がん剤投与を受けると薬剤や個人差によりばらつきがありますが、7日目くらいから白血球数が減少してきて、1週間~10日間くらいかけて正常値に戻ります。この期間は免疫力が低下しており、発熱や感染症に気を付けなければいけません。 すべてに火が通った食事と制限をかけない食事のどちらがいいかという研究者1960年代から行われていますが、実ははっきりとした違いが出ていません。
そのため、各ガイドラインにも「はっきりとしたデータがあるわけではないが」と前置きされたうえで、生肉、生魚、生卵、洗っていない野菜やフルーツは避けたほうがよいかもしれません(Oncology Nursing Society Cancer Chemotherapy Guidelines and Recommendation s for Practice)。と書かれています。The United States Department of Agricultureからは、①低温殺菌されていないジュースやチーズなどは避ける②食事前には手を洗う③期限切れの商品は食べない④保存してある生肉、生魚、生鶏肉は気を付けましょう。と書かれているだけです。
知らない人は驚くかもしれませんが、抗がん剤治療中は野菜にはすべて火を通して、生魚はダメ!というのは何の根拠もないのです。
個人のリスクにもよりますが、好きな食事をおいしく食べることは抗がん剤治療にとってもプラスに働きます。新鮮な野菜をしっかりと流水ですすいでサラダを作る、免疫力の低下のない時期などにお寿司を食べに行くなど、食事を楽しみましょう。
2020.02.27 | がん治療Q&A
遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)
乳がんや卵巣がんを調べたことがある人であればBRCA遺伝子、HBOCという言葉を聞いたことがあると思います。
BRCA遺伝子は遺伝子が傷ついた時に修復する役割を担っています。
この遺伝子に異常があると遺伝子修復ができなくなり、傷ついた遺伝子が増幅していきます。結果として癌になりやすくなるということです。
特に乳癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌に特に関係があることが分かっています。
BRCA遺伝子はBRCA1、BRCA2の2種類が知られています。
乳癌
BRCA遺伝子異常があると70歳までに50%、約半数の人が乳癌を発症するリスクがあると言われています。特徴としては①発症年齢が若い②両側乳癌③家族歴があるなどが挙げられます。BRCA2は男性乳癌に多いとされて、14%程度の人に見られる。
卵巣癌
BRCA遺伝子異常があると70歳までにBRCA1で40%、BRCA2で18%が卵巣癌になると言われています。634人の卵巣癌患者を対象としてBRCAを調べたCHARLOTTE試験では14.7%と出ました。ステージ3・4の進行卵巣癌に関しては24.1%と高かったことが分かりました。乳癌に関しては約10%程度の人が遺伝子異常を持っていると言われています。
膵臓癌、前立腺癌
BRCA2を持っているケースが多いです。
BRCA遺伝子検査は生殖細胞遺伝子変異も確認するため遺伝カウンセリングが必須になります。保険適応でBRCA遺伝子検査はできます。検査自体の費用は約6万円です。それにカウンセリング費用が加わります。
現在の日本ではオラパリブ(リムパーザ)が生殖細胞列のBRCA遺伝子変異が陽性であれば使用できます。卵巣癌、乳癌に関して保険適応が通っています。2019年のアメリカ臨床腫瘍学会で転移・再発膵臓癌に対する維持療法で無増悪生存期間中央値が延長(3.8か月 vs s7.4か月)されたPOLO試験の発表もありました。
2020.02.27 | がんと遺伝
遺伝子検査
令和元年にNCCオンコパネル、Foundation Oneを用いたがんゲノム検査が保険適応となりました。これまでのがん治療がどう変わるのか?NCCオンコパネルとFoundation Oneの違いなどを書いてみようと思います。
遺伝というと親から引き継いだもので子供たちにも影響するものだと思っていませんか?必ずしもそうではありませんがん細胞自体の遺伝子変異(Somatic mutation)と胚細胞由来の遺伝子変異(Germ line mutation)と2種類あることを知っておいてください。
上の図のようなパターンがあります。生殖細胞(精子、卵子)遺伝子変異があれば子供たちに遺伝していく可能性があり、体細胞変異(がん細胞だけの変異)であれば遺伝はしないことが分かると思います。 この遺伝子変異を見つけるのがNCCオンコパネル、Foundation Oneになります。増えているがん細胞にしかない遺伝子異常が見つかって、その遺伝子に異常に対する薬ができればがん細胞がなくなるんじゃないか?というのが遺伝子治療の概要です。
①生殖細胞遺伝子変異も分かるNCCオンコパネル NCCオンコパネルの名前の由来は National Cancer Center 築地にある国立がん研究センターで作成されたからです。検査の特徴としては血液中の遺伝子とがん細胞を比較することにあります。
間違い探しみたいな感覚ですね。正常細胞とがん細胞を比較してより正確に遺伝子変異を見つけようとします。ただし、正常な細胞に遺伝子異常が見つかると生殖細胞遺伝子変異の可能性が出てきます。NCCオンコパネルで分かる生殖細胞遺伝子変異には以下のようなものがあります。
遺伝子 | |
BRCA1, BRCA2 | Hereditary Breast and Ovarian Cancer |
TP53 | Li-Fraumeni Syndrome |
STK11/LKB1 | Peutz-Jeghers Syndrome |
MLH1, MSH2 | Lynch Syndrome |
APC | Familial Adenomatous Polyposis |
VHL | Von Hippeel Linday Syndrome |
RET | Multiple Endocrine Neoplasia Type 2 Familial Medullary Thyroid Cancer |
RB1 | Retinoblastoma |
PTEN | PTEN Hamartoma Tumor Syndrome |
TSC1 | Tuberous Sclerosis Complex |
SMAD4 | Juvenile Polyposis |
②Foundation One 腫瘍細胞のみを使用して324個の遺伝子変異を調べます。こちらの検査の大きな特徴は肺がん、悪性黒色腫、乳がん、大腸がんへの保険適応されている分子標的薬が使用可能です。
どちらの検査も生涯で1回しかできません。どのタイミングで行うかどうかは担当医との相談が必要です。
誤解されることがあるのですが、遺伝子変異が見つかれば治療薬が使用できる・効果があると思っている医療者も少なくありません。しかしながら、調べる遺伝子異常のすべてに薬があるわけでもなく、運よく(10%程度)見つかったとしても保険では使用することができず、患者申し出療養費か自費で治療を受けないといけません。また必ず効果があるわけではないので慎重な判断が必要となります。治験などの参考にはなるかもしれません。
次回はBRCA遺伝子に関して書きたいと思います。
2020.02.06 | がんと遺伝
ピロリ菌と胃癌
皆さんはピロリ菌という細菌を聞いたことがあるでしょうか?胃癌や胃潰瘍などの原因となる細菌のことです。
オーストラリアのマーシャル博士が自分で細菌を飲み込んで胃潰瘍になったことで発見され、ノーベル賞を取っています。今回はピロリ菌にまつわる話をしてみたいと思います。
ABC検診
健康診断でABC検診というのを行ったことがある人もいるかもしれません。 ピロリ菌抗体検査とペプシノーゲン法(萎縮性胃炎:ピロリ感染している胃粘膜)を採血で調べます。胃癌のリスクを評価する血液検査です。
ピロリ菌を検査するその他の方法
- 内視鏡検査で一部を取ってきて培養検査
- 内視鏡検査で一部を取ってきて迅速検査
- 尿素呼気試験
- 便中抗原検査
があります。状況などによってどの検査が適切かはご相談ください。
ピロリ菌に感染しているとどれくらい胃癌になりやすいのか?
2020.02.06 | がん治療Q&A