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乳がん治療のコロナウイルスの影響

世界で最も権威がある論文雑誌にNew England Journal of Medicine(NEJM)があります。毎週、流し読みはしているのですがその中に乳がん治療とコロナウイルス流行の影響が記載された症例報告がありました。私が働いていた病院でも3月、4月のコロナウイルス流行期には抗がん剤治療により慎重になり、遅らせることができる手術は延期するなどの対策が取られました。個々の症例で違いますし、癌と診断されたのちにコロナウイルスがあるから手術はしばらく延期ですと言われた患者さんは気が気でないでしょう。医師側もかなり悩んでいました。コロナウイルスによりがん治療も少し変わりつつあります。

62歳女性 左乳房に3cmの腫瘤があった。生検結果で乳がんの確定診断がついた。エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)が強陽性、HER2は陰性。リンパ節転移は認めていない。

T2N0M0のホルモン受容体陽性乳がんの確定診断が付きました。

コロナウイルスが流行する前の治療戦略は、手術→組織全体を見て再発リスクを考慮して術後化学療法を追加するか決定→術後ホルモン療法となります。部分切除であれば術後放射線療法も追加するでしょう。

もし、コロナウイルス流行しており手術が制限されていたりした場合にはどうすればよいのか?Discussionではいくつかの方法が提示されています。

①手術を早急に行い、放射線療法を遅らせる。術後20週まで開始を遅らせても再発などに影響がなかったという研究があります。

②術前化学療法を行う。今回の症例では手術を行う前にホルモン療法を行う選択肢があります。3ヶ月の治療により69.8%のホルモン受容体陽性乳がんの患者さんが術前に縮小、もしくは画像的には消失してしまったという報告があります。術前ホルモン療法は3-6か月行われるのが通常ですが、効果が得られているようであればさらに延長することもできます。懸念すべき点としては、100%効くわけではないため、慎重なモニターリングが必要なこと、術後に化学療法が必要かどうかを調べるオンコタイプの結果が不確定になってしまうということが挙げられます。

以上のようなDiscussionが述べられています。どの選択肢が好ましいかは患者さん個々で違うため一概には決められません。本文中ではHER2陽性、Triple negative乳がんに関しても述べられていますが非常に悩ましい選択ばかりです。周辺地域でコロナウイルスが広がってきたときにどうすればよいのか、どの選択肢が一番好ましいのかを主治医としっかり話し合って決めましょう。

2020.07.04 | がん治療Q&A

遺伝検査の現状

医学生や医師向けに医学界新聞というのが無料で配布されています。

今月の医学界新聞に”がんゲノム医療の明日を考える”というタイトルで掲載がありました。

http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03377_01

司会の小山隆文先生は私が亀田総合病院の腫瘍内科時代の上司であり、亀田総合病院を離れた後にも指導していただき、国立がん研究センター中央病院へ誘ってくれた恩師です。

一時期にメディアでも遺伝子検査、個別医療という言葉が躍り話題になりました。最近はコロナの話題などもありメディアではあまり見かけていませんが、着実に検査数は増えているのが分かります。

保険収載から1年たちますが、治験に結び付いた数は非常に少ないのが分かります。また、検査結果の解釈は非常に専門性が高いため人材育成や確保が課題のようです。

広島では広島大学病院を中心としてやっと遺伝カウンセリングの体制が整ったりしてきているのが現状です。今後、広島県でのデータ蓄積がされ1人でも多くの患者さんに恩恵があると良いと思います。

2020.07.03 | がんと遺伝

胸腺癌とレンバチニブ

国立がん研究センター中央病院でチーフレジデントで同期だった佐藤潤先生が行った胸腺癌に対するレンバチニブ投与の第2相試験の結果がLancet Oncologyに掲載されていました。

胸腺癌は希少癌の1つでプラチナ製剤で病状が進行してしまった場合には治療選択肢がありませんでした。奏効率(腫瘍が小さくなった患者さん)が38%で高血圧が主な副作用でした。下のグラフがWater Fall Plotで下に滝のように流れて行っているほど薬が効いているということです。非常にきれいな滝が落ちているのが分かると思います。

Lenvatinib in patients with advanced or metastatic thymic carcinoma (REMORA): a multicentre, phase 2 trial

希少癌の治療開発は非常に難しいことをがんセンターで学びましたが、一緒に働いていた先生がこういった発表しているのを見ると嬉しいです。

2020.06.27 | 希少がんについて

子宮頸がんとHPVワクチン

子宮頸がんの原因の1つにヒトパピローマウイルス(HPV)が関わっていることは広く知られています。ウイルスなので感染を防ぐ、ワクチンが開発されています。日本では2価と4価の2種類のワクチンがあります。2価はHPV16型・18型、4価は6型・11型・16型・18型による感染を防ぐ抗体を作ります。

接種対象

接種対象は小学校6年生から高校1年生の女子となっています。

2価:中学1年生の間に、1か月の間隔をおいて2回接種したあとに、1回目の接種から6か月の間をおいて3回目の接種をする。

4価:中学1年生の間に、2ヶ月の間隔をおいて2回接種したあとに、1回目の接種から6か月の間をおいて3回目の接種をする。

子宮頸がんワクチンの効果

HPVワクチンを打つことで子宮頸がんは90%以上予防できるというデータがあります。先日、スコットランドからもワクチンを打った世代と、打っていない世代を比較すると89%も発症率が減ったというデータがでました( BMJ 2019; 365 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.l1161 (Published 03 April 2019) )。

WHOからの資料です。上図のようにワクチンと検診を組み合わせることで子宮頸がんをほぼ失くすことができます。

副作用が全くないわけではありません。発熱や頭痛、吐き気を打った後に生じることはありますが稀です。それに子宮頸がんを防ぐことができるベネフィットが大きいので世界中で接種が推奨されています。

日本では子宮頸がんワクチンとも呼ばれていますが、HPVは男性も感染します。そのため、アメリカやオーストラリアなどでは男性にもHPVワクチンは打っています。

子宮頸がんにかからないようにHPVワクチン接種を受けましょう。瀬尾医院でもHPVワクチン接種可能です。お問い合わせください。

2020.04.30 | がん治療Q&A

抗がん剤中の食事

「食事はいつも通りでいいですか?」

抗がん剤を受けている方、抗がん剤を受けている家族がいる方から良く受ける質問の1つです。

主治医やインターネットから

「抗がん剤治療中は感染症にかかりやすいから、野菜は火を通して、お寿司は避けてください。」と言われて食事が味気ないものになっていませんか?

私は、                                 「好きなものを食べて、少しずつでも必ず口にするようにしてください。」  と伝えています。

実は、昔から生はダメと言われていますが、しっかりとしたデータはありません。1900年代と現代では食品の物流方法や管理方法が大きく変わっています。 実際に私の患者さんは抗がん剤治療中でもサラダやお寿司を食べていますが、問題になったことはありません。食事は抗がん剤治療中で多くのことを制限されている患者さんにとっては重要ですよね。

少し古い文献ですが、2011年に ”The Benefit of the Neutropenic Diet : Factor or Fiction? (免疫が低下しているときのご飯 : 事実なのかフィクションなのか?)” から引用してみます。

抗がん剤投与を受けると薬剤や個人差によりばらつきがありますが、7日目くらいから白血球数が減少してきて、1週間~10日間くらいかけて正常値に戻ります。この期間は免疫力が低下しており、発熱や感染症に気を付けなければいけません。 すべてに火が通った食事と制限をかけない食事のどちらがいいかという研究者1960年代から行われていますが、実ははっきりとした違いが出ていません。

そのため、各ガイドラインにも「はっきりとしたデータがあるわけではないが」と前置きされたうえで、生肉、生魚、生卵、洗っていない野菜やフルーツは避けたほうがよいかもしれません(Oncology Nursing Society Cancer Chemotherapy Guidelines and Recommendation s for Practice)。と書かれています。The United States Department of Agricultureからは、①低温殺菌されていないジュースやチーズなどは避ける②食事前には手を洗う③期限切れの商品は食べない④保存してある生肉、生魚、生鶏肉は気を付けましょう。と書かれているだけです。

知らない人は驚くかもしれませんが、抗がん剤治療中は野菜にはすべて火を通して、生魚はダメ!というのは何の根拠もないのです。

個人のリスクにもよりますが、好きな食事をおいしく食べることは抗がん剤治療にとってもプラスに働きます。新鮮な野菜をしっかりと流水ですすいでサラダを作る、免疫力の低下のない時期などにお寿司を食べに行くなど、食事を楽しみましょう。

2020.02.27 | がん治療Q&A