がん治療Q&A
ホルモン療法は何年続けるべきか?
乳がんの中でもホルモン受容体陽性乳がんの手術後にはホルモン療法を最低5年間は継続します。患者さんに5年間と伝えると、「そんなに長く!」と言われることも多くあります。
閉経前でリスクが高い場合には5年間追加して合計10年間内服することもあります。閉経後の女性はどうするのかは色んな意見があり統一はされていませんでした。今週の論文にこの疑問点を解決してくれるものがあったので紹介します。

閉経後のホルモン受容体陽性乳がんの患者さんに7年内服させるのか10年内服させるのかという試験です。結果は、、、

再発率に差はなし。

死亡率も差はなし。
では副作用はどうでしょうか?たまに当院に来院される患者さんでもホルモン療法は副作用はほぼないって聞いてますという方がおられますが、そんなことはありません。血栓症、関節痛、骨粗鬆症などの副作用があります。

骨折リスクは5年間追加したほうが高くなっています。また、その他の副作用も5年間追加内服群が起こりやすくなっています。
閉経後のホルモン療法は10年間内服しても7年間内服と比較するとがんの再発率は関係ないが、副作用は起こりやすくなるという結果が出ました。
骨折予防にはホルモン内服中に骨密度を定期的に測定し、必要であれば骨粗鬆症の治療も並行して行うことが重要です。
2021.07.30 | がん治療Q&A
Foundation One Liquid
これまではがん組織がないと検査ができなかった遺伝子検査ですが、今年の夏からいよいよ血液検査でもがん組織の遺伝子検査が行えるようになります。
Foundation One Liquid(ファンデーションワンリキッド)と呼ばれるもので、血液中のがん細胞のDNAを拾って遺伝子検査を行います。
がんの組織検体が少なくて、検査に出せなかった。がん組織が体の深くにあり取ってくることができなかった。手術した検体が古くて検査ができなかった。というような患者さんたちにとって有益な検査になる可能性があります。
広島県では決まった施設でしかできないですが、主治医の先生方に是非たずねてみてください。

胆管がんに対する新薬
胆管がんは症状が出るのも遅く、診断がついた時には手術ができず抗がん剤治療が中心となることがほとんどです。
進行も早く、適応可能な抗がん剤も少ないため腫瘍内科医が無力を感じてしまうことも多いがんの一つです。
今年の3月にFGFR2阻害薬であるペミガチニブが承認されました。
ペマジールという薬剤になり内服薬になります。
FGFR2融合遺伝子、再構成が認められている胆管がんのみが対象となっていますが、奏効率が35.5%、奏功持続期間の中央値は約7.5カ月となっています。
非常に有効な薬剤と思われますが、この遺伝子を調べるのにはFoundation Oneが必須となります。(Foundation Oneについては別で記載してありますのでご参照ください。)胆管がんの進行などから考えると、治療開始と同時に検査を提出しないと投薬が難しいかもしれません。以前と違い、Foundation Oneの結果も出るのがかなり早くなったので1カ月程度で知ることができます。

海外ではインフィラグチニブというFGFR阻害薬も承認されました。
帯状疱疹、、、
60歳以上の患者さんや抗がん剤治療中の患者さんで困ることが多い合併症に帯状疱疹があります。
皮膚の痛みから発症して赤く発疹が出てきて、痛みがどんどん強くなっていく。特に免疫力が落ちたような状況で発症すると言われています。
ただでさえ80歳までに3人に1人が発症すると言われる帯状疱疹。痛みが強く、皮疹が消えた後も痛みと痣が残ります。
帯状疱疹にはワクチンがあり、ワクチンを打つことで94%の予防効果があります。1回2万円程度かかり、2回(2か月~6カ月以内)打たないといけません。高額ですが帯状疱疹にかかると医療費はもっとかかりますし、後遺症が残ります。それを考えると決して高くない治療です。抗がん剤投与中の方でも打てるワクチンになっています。常時在庫があるわけではなく、取り寄せになります。是非ともご検討ください。


2021.06.21 | がん治療Q&A
高齢者の乳がん術後化学療法

世羅、尾道、三原、三次などの地区にも高齢の乳がん患者さんがおられます。
乳がんの手術は行ったが、術後に抗がん剤治療をすべきかどうか迷われている方も多いと思います。術後化学療法は高リスク、中リスク、低リスクと分けて考えます。高リスクは明らかに抗がん剤をしたほうがいい人、低リスクはしないでも大丈夫な人となっています。一番、迷うのは中リスクの人たちです。遺伝子解析などからより詳細になってきていますが、それでも高齢者に関してはデータが少なく抗がん剤の副作用も心配だし。。。と本当に迷います。患者さんと十分なやり取りをしたうえで術後抗がん剤治療を決定していました。
この論文は70歳以上の高齢者の高リスク群の患者さんに対して術後抗がん剤治療が有効かどうかの検討を行ったものです。
乳がん手術を行った2811人中の397人が抗がん剤治療を受けて、2414人が抗がん剤治療を受けませんでした。
結果としては、再発率を抑えられた一方で生存率に関してはいい結果が見られませんでした。ホルモン受容体陰性乳がんに関しては生存率の改善が見られましたが、そのほかでは差が見られませんでした。抗がん剤治療をするとQOLの低下も見られました。高リスクの高齢乳がん周術期の抗がん剤治療が生存率に寄与しなかったとなると中リスクに関しては更に検討が必要なのかなと思います。術後抗がん剤治療は投与開始はできるだけ早いほうがいいのは間違いないですが、抗がん剤治療を迷ったときにはセカンドオピニオンを求めた方がいいと個人的には考えています。
2021.05.27 | がん治療Q&A