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がん治療Q&A

日本のがん治療に足りないもの

11月3日のLancet Oncologyに高齢がん患者さんの治療に関して興味深い論文を見つけました。今回は長くなりますが、読んでいただけると幸いです。

70歳以上のがん患者さんを治療するときには、高齢者機能評価のサマリーを提供してもらうことにより抗がん剤の毒性が減り、患者の自己意思決定能力も上昇し、転倒も減らしたという内容でした。

日本では、患者さんも「困った時には主治医に相談したい!」と思っている方が多いと思います。これまでかかりつけ医だった診療所などの先生も、がんの副作用は主治医に聞いてください(あなたも主治医なんですけど!)となるケースが多いです。しかしながら、総合病院の先生の外来日は決まっており、電話でもなかなか相談できない、来週の外来日の予約とっておきますね。と言われてそれまで耐える、耐えられなかったら救急車を呼んでしまう。。。こんなことが起きているのが現実です。

この論文内で知ったのですが、アメリカにはCommunity Oncology Practiceという言葉があるようです。地域にいる腫瘍医や看護師のことを指し、治療もすれば、時には他の病院で治療をしている患者のフォローアップなども行い、プライマリケア医としての役割も果たすとあります。

https://coaadvocacy.org/what-is-community-oncology/

日本では臓器別のがん治療が発達しているため、かかりつけになれるがん治療医は稀です。がん治療は大きな総合病院でやるべきという考えが、医師・患者双方にあります。私が広めていきたい地域の総合腫瘍医はがん治療、副作用マネージメントを総合病院の医師と連携してもできるし、自分でも実施できる、そしてフォローアップ、緩和ケアまでとがん患者の一生、Cance Journeyに寄り添える総合診療医の育成です。日本のプライマリケア医、診療所の医師は予防、緩和ケアには強いけど治療中のフォローに関して体系的に学ぶプログラムがありません。 高血圧、糖尿病と同じ慢性疾患で誰しもが罹患する可能性がある疾患なのに、診断・治療・緩和が分断されすぎているために、主治医から抗がん剤治療はこれ以上ないと言われたときに見捨てられた感が強くなると考えています。がん治療中にももっと関わってくれるプライマリケア医を育てて、全国に増やさないといけません!

この論文なのですが、特に何をしていたかというと、
①IADLを評価 手段的日常生活動作:電話や買い物、洗濯などの評価
②Short Physical Performance Batteryの評価:バランスや歩行の評価
③Geriatric Depression Scaleの評価:うつ状態や精神状態の安定性を評価
④治療中の注意事項

上記をCommunity Oncologistに渡していたようです。そんなに難しいことではなく、医師でなくても評価はできるものです。

青いのがサマリーをもらった群、ねずみ色はサマリーをもらわない群です。Grade3-5という生活に支障が出る副作用が明らかに青い方で少なくなっています。
投与量は患者からの申し出などのShared Decision Makingが連携群のほうが多く、投与量は減ったようです。その結果、副作用も少なくなっています。
投与量が減っていたにも関わらず、寿命は変わりませんでした。

この論文の結論としては高齢者のがん治療をするときには評価シートを用いることを標準治療に組み込むべきだとなっています。

日本の現状では、総合病院の臓器別がん治療医がここまでフォローするのは無理です。忙しい外来・病棟・書類仕事の中でそこまでするのは難しく、これを行えるのは診療所やクリニックのかかりつけ医だと考えます。開業医が暇と言っているわけではなく、患者さんと対等に話ができ、どのような地域で生活していて、誰と一緒に暮らしていて、何が趣味なのかなど患者背景を知っておくことでこの評価シートが最大限生かされると考えられます。
そして、患者さんの思いや副作用、抗がん剤治療の提案などをがん治療医に提案して一緒に治療をしていく。こういった体制が取れるようになると高齢化社会を迎えた日本のがん治療がより良い方向に行くのではないかと思います。治療ができないと言われてどこに行ったらいいか分からない、、、などといったがん難民を減らす一助にもなると考えています。

まとまりのない文章になってしまいましたが、日本のがん治療に欠けている物をこの論文から考えることができたので掲載させてもらいました。

2021.12.16 | がん治療Q&A