2020年7月
乳がん治療のコロナウイルスの影響
世界で最も権威がある論文雑誌にNew England Journal of Medicine(NEJM)があります。毎週、流し読みはしているのですがその中に乳がん治療とコロナウイルス流行の影響が記載された症例報告がありました。私が働いていた病院でも3月、4月のコロナウイルス流行期には抗がん剤治療により慎重になり、遅らせることができる手術は延期するなどの対策が取られました。個々の症例で違いますし、癌と診断されたのちにコロナウイルスがあるから手術はしばらく延期ですと言われた患者さんは気が気でないでしょう。医師側もかなり悩んでいました。コロナウイルスによりがん治療も少し変わりつつあります。

62歳女性 左乳房に3cmの腫瘤があった。生検結果で乳がんの確定診断がついた。エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PgR)が強陽性、HER2は陰性。リンパ節転移は認めていない。
T2N0M0のホルモン受容体陽性乳がんの確定診断が付きました。
コロナウイルスが流行する前の治療戦略は、手術→組織全体を見て再発リスクを考慮して術後化学療法を追加するか決定→術後ホルモン療法となります。部分切除であれば術後放射線療法も追加するでしょう。
もし、コロナウイルス流行しており手術が制限されていたりした場合にはどうすればよいのか?Discussionではいくつかの方法が提示されています。
①手術を早急に行い、放射線療法を遅らせる。術後20週まで開始を遅らせても再発などに影響がなかったという研究があります。
②術前化学療法を行う。今回の症例では手術を行う前にホルモン療法を行う選択肢があります。3ヶ月の治療により69.8%のホルモン受容体陽性乳がんの患者さんが術前に縮小、もしくは画像的には消失してしまったという報告があります。術前ホルモン療法は3-6か月行われるのが通常ですが、効果が得られているようであればさらに延長することもできます。懸念すべき点としては、100%効くわけではないため、慎重なモニターリングが必要なこと、術後に化学療法が必要かどうかを調べるオンコタイプの結果が不確定になってしまうということが挙げられます。
以上のようなDiscussionが述べられています。どの選択肢が好ましいかは患者さん個々で違うため一概には決められません。本文中ではHER2陽性、Triple negative乳がんに関しても述べられていますが非常に悩ましい選択ばかりです。周辺地域でコロナウイルスが広がってきたときにどうすればよいのか、どの選択肢が一番好ましいのかを主治医としっかり話し合って決めましょう。
2020.07.04 | がん治療Q&A
遺伝検査の現状
医学生や医師向けに医学界新聞というのが無料で配布されています。
今月の医学界新聞に”がんゲノム医療の明日を考える”というタイトルで掲載がありました。
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03377_01
司会の小山隆文先生は私が亀田総合病院の腫瘍内科時代の上司であり、亀田総合病院を離れた後にも指導していただき、国立がん研究センター中央病院へ誘ってくれた恩師です。
一時期にメディアでも遺伝子検査、個別医療という言葉が躍り話題になりました。最近はコロナの話題などもありメディアではあまり見かけていませんが、着実に検査数は増えているのが分かります。
保険収載から1年たちますが、治験に結び付いた数は非常に少ないのが分かります。また、検査結果の解釈は非常に専門性が高いため人材育成や確保が課題のようです。
広島では広島大学病院を中心としてやっと遺伝カウンセリングの体制が整ったりしてきているのが現状です。今後、広島県でのデータ蓄積がされ1人でも多くの患者さんに恩恵があると良いと思います。
2020.07.03 | がんと遺伝